INTERVIEW

【ブティックス】介護用品の専門店から商談型展示会とM&A仲介事業へ Vol.2

2018.08.10

介護業界に特化したマッチング・プラットフォーム事業を展開するブティックス株式会社。現在のビジネスモデルにたどり着いた経緯や今後の事業構想について、新村祐三代表取締役社長にお話を伺います。前回の記事はこちら

(ライター:中村慎太郎)

介護業界で重ねた信頼に基づきBtoB事業を展開

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):BtoCで成果を上げられた後に、2015年からマッチングビジネス、BtoBへと重点を移していくわけですが、どういったきっかけがあったのでしょうか?

新村 祐三(ブティックス株式会社代表取締役社長。以下、新村):当時、薄利多売で儲けは少なかったものの、黒字になっていました。「ブティックス」が成功して業界でわりと有名になったものですから、2013年頃から上場会社が2社、介護用品のネット通販に参入してきました。彼らが資金を投じてネット広告を大量にかけ、原価ぎりぎりの価格設定をしてきたため、価格競争も熾烈になってきました。

我々も広告を出せば売り上げが伸びるのは分かっているのですが、広告費の比重が大きくなると経営が苦しくなります。

もともと数%の利益でしたからこのままではもたない、という状況に直面しました。そこで、当社が収益を上げていけるようなBtoBのビジネスモデルをしっかり確立しようと、その頃から模索を始めました。

当社は、介護用品のeコマースでは、かなりの実績をあげていたので、取引先のメーカーから信頼が厚いという強みがありました。ここまでやるかというくらい丁寧な対応をしていたものですから、メーカーの社長も一度会いたいと来てくださって、我々のやり方に共感してくださるので信頼関係が構築できていたんです。このネットワーク、リソースを生かすべきだと考えました。

村上:展示会の出展社になられる方々ですね。

新村:そうです。2013年頃、色々と模索する中で、お困りになっていることはないかとメーカーに話を聞きに行ってみると、皆さん営業で悩まれていたんですね。当時、介護施設が次々と新設されている一方、売り込みたいと営業に行っても門前払いで会ってもくれないので、当社に介護施設を紹介してくれないかと頼まれました。そうした介護事業者は、当社のeコマースでも取引がありましたので、ご紹介しました。

同時に、介護事業者にも何かお困りごとはありませんか、とヒアリングしました。すると、みなさん情報不足で困っていらっしゃったんです。メーカーの情報も良く知らない、という方が予想以上に多く、介護事業者の方にお伺いするたびに、スプリンクラーが壊れたという話だったり、新しい家具が必要という相談だったり、介護ベッドを入れ替えたい・・・など、いろんなニーズに遭遇します。

ただ、皆さん忙しいので情報を収集する時間がないんですね。まさに商品購入で悩んでいるタイミングで営業から売り込みがあれば良いのでしょうが、なかなかタイミングがぴったり合うものでもありません。必要でないときに営業がきても、対応する時間がない。結果、介護用品に関する情報に普段接することがなく、必要な時に情報不足で困ってしまうという状態でした。

つまり、お互いニーズがあるのにマッチングされる機会がなかったため、これはマッチングする必要があるんじゃないかと思ったわけです。私は、前職で、展示会を通して企業同士をマッチングしていたので、それなりにノウハウがありました。それで、課題解決のために展示会を開催しようと考えたのです。

ブティックス「成長可能性に関する説明資料」より)

メーカーも介護事業者も、おたくの会社が展示会を開催するなら、参加しますよ、と言ってくださったので、2015年3月に第1回の展示会を東京ビッグサイトで開催しました。

ユーザーからの声をきっかけとしてBtoBビジネスへ

村上:介護の展示会はそれまでなかったのですか?

新村:BtoB専門の展示会はなかったですね。ただ、BtoCも兼ねた展示会で40年以上前から開催されている大規模な福祉機器の展示会がありましたので、それに対抗して展示会を開催することは、みんな考えていなかったのではないかと思います。

村上:BtoB専門の展示会が隙間として空いていたというわけですね。

新村:そうです。我々も最初は本当にニーズがあるのか疑っていました。しかし、メーカーや介護事業者の方々に聞いてみると、展示会に学生や一般の方が来られると、商談がしにくいので、来場者を業界のプロの方に絞って欲しい、という要望が思った以上に多かったんです。それなら、BtoBに絞って、商談型展示会をやります、と言ったところ、業界の皆様からご賛同をいただくことになりました。

村上:そこからM&A仲介に展開していったのはどのようなきっかけでしょうか?

新村:展示会の情報収集をしているときに、業界における課題があちこちから聞こえてきました。

大手中堅の介護事業所に行くと、「他の介護事業者を買いたいと思っている。売りに出ている案件があればぜひ教えてほしい」とよく言われました。

一方で、小規模な事業者は介護保険制度が改定されるたびに経営難になっているところが多く、冗談交じりに「もうやめようかと思ってる。どこか引き取ってくれるところ無いかなぁ」という話をされます。

買収したい事業者と売却を考えている事業者の二極化しているニーズが見えてきて、これもマッチングできるんじゃないかと考えました。それで、2015年3月の展示会開催直後に、M&A仲介事業をスタートさせました。

ブティックス「成長可能性に関する説明資料」より)

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):事業が苦しくて売りたいと考える事業者の場合、どのようなケースが多いのでしょうか?

新村:いくつか理由がありますが、ひとつは介護報酬の引き下げにより、経営環境が悪化していること。それと人材難ですね。人の採用が厳しいです。大手ならば複数の事業所の分もまとめて一度に募集広告を出すことができ、事業所単位のコスト負担は低く抑えられますが、小規模事業者が単独で募集をしようとすると、コストが割高になって、なかなか広告も出せません。知名度も低いので、採用で本当に困っています。

村上:マクロトレンドから生まれてきたニーズということですね。

新村:そうですね。業界全体で二極化がどんどん進んでいます。従来のM&A仲介会社は、最低手数料2千万円からというのが一般的です。銀行や証券会社の場合、最低手数料4千万円とも聞いています。

売り上げ規模が年間数千万円程度、しかも赤字、譲渡しても数百万円になるかどうか、といった条件の会社は、廃業するしかなかったんですね。経営難で困った時は、顧問税理士に相談したり、知り合いに相談したりして、運が良ければ引き取ってもらえることもありますが、なかなか上手くいかずに廃業してしまうケースが多いのが実情です。

廃業すると、施設の入居者はもちろん従業員も困るわけです。買収されて経営が安定すれば、安定的に給料も貰えるし、何より入居者が安心して生活できます。これは非常に意義があるしニーズもあるので始めてみようと考えました。最低手数料100万円からです。これは業界でも異例の価格設定でした。

展示会に来場される方の多くは決裁権限者なんですね。経営者自らが取引交渉をされることも多く、展示会に来場される経営者層の方々にアプローチすれば、M&Aのニーズがいち早く入手できるわけです。つまり展示会を開催するごとに、M&Aのニーズが蓄積されていき、データベースが構築されていくわけです。

今、手を上げていただいているM&Aの買い手候補は3,000社ほどあります。当社の場合、買い手候補が多数いるため、買い手のリサーチにかかる時間が短く、お問合せから成約までの期間が圧倒的に短いのが特徴です。通常、M&Aでは、お問合せから譲渡まで半年から1年かかるといわれていますが、当社の場合、短いものだと、ひと月半から長くて半年ぐらいです。

ブティックス「成長可能性に関する説明資料」より)

村上:介護事業者の廃業率が高いことを考えると手数料が10分の1だとしても、数をこなせれば十分ビジネスになるわけですね。取り扱い件数を10倍獲得できる見込みがあると気付かれた点がお見事ですね。

小林:買い手の候補側を探して新たに営業するわけではなく、元々お付き合いがあるところにお話を持っていくわけですから、営業効率も非常にいいですね。

新村:はい。東京だけでなく、大阪や福岡で展示会を開催しているため、全国の介護事業者とコンタクトできるのも非常に大きいと思います。東京だけの開催だと、来場者はどうしても関東圏に偏ってしまいますから。

小林:これこそが「データベース」と書かれていることの意味なんですね。

新村:そうですね。展示会を入り口にして、決裁権限者の情報と、決裁権限者が必要とされるニーズが、データベースとしてどんどん構築されていきます。その方々のニーズに、いち早く応えたのが、M&A仲介事業です。